橋本さん【2022年の思い出・経験】

視界が一瞬で真っ白になって
お、と思わず足を止めた。
暖かい息がマスクと鼻の間を通って、メガネを曇らせたのだ。

寒いが仕方ない

凍ってしまったのかと錯覚するほど感覚麻痺のした手でメガネを外す。
メガネのフレームの冷たさに、痛みを感じると同時に、
ひらりと頬に冷たいものがついて、
まるで忘れ物したことを思い出して、来た道を戻るように
一瞬で消えゆくのを感じた。

まぶたを開けて上を向く。
白い、細かい雪が、ゆっくりと広がるように落ちてきた。

今は冬、僕はそれを思い出す。

そう思うとき、これまで受けてきたいろいろなものからの影響を考える。

何度も読み返した小説の一節
誰かが、よく使っていた口癖
どこかで読み聞きして知ったアイデア

そうしたものが、今の自分の思考に表れているのがわかる。

これまでの記憶の集積で、人は、できているのだろうか

おそらく、そうだろう。

記憶の面白いのは、
客観と主観でできていて不確かにも関わらず、
ここまで個人が判断において信頼を寄せるものは珍しい、ということだと思う。

事実よりも、記憶の方が影響力が強い場面も多々観察される。

否、主観が混じる記憶だから、いいのだろうか。

「橋本くんって、あの先輩の手話にそっくりだよね」

ふと大学での情景を思い出す。
最近、そう言われたのだった。

確かに、と思う。

去年の自分とは、きっとだいぶ違っているだろう。
自分は意外に、変化しているものだな、と思う

あるいは、そう思いたい意志が見せる錯覚だろうか。

2022年は、振り返ってみれば驚きと出会いの年で、
思ってもみなかった、の連続だった。

まさかサウナを好きになることも
まさか夏の集いで司会としてやりきることも
まさかアイドルに熱をあげることになることも

全く想像もしていなかったのだから。

それに、一番、、、予想外だったのは、人間関係。

尊敬している先輩方に可愛がってもらい
可愛い大学の後輩もでき、すごく仲良くなれたりと。

それまで孤独だった時期からは想像もできないほどの変わりようだった。

それが1番、驚いたことで。
そして1番、嬉しかったこと…。

真っ白な息を吐く。
息はどうしてこんなにも暖かいのか。

笑いがこみ上げてきた。
当たり前なことなのに、、、。
可笑しかった。

ああ、綺麗だ。
濁ったものはここにはない
なにもかも
空に吐き出してしまったから
美しい、
思い出しかない。

来年は、誰かにそう思ってもらえるような自分でありたいな。
そう思って、一歩、踏み出す。

一歩前の足跡を残して。

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